コラム - 第5話


第5話 - ハービー・ハンコック氏の記事から  by 矢萩 秀明
 先日、新聞でジャズ・ピアニストのハービー・ハンコック氏のプロデュースする「東京JAZZ」の記事を読み氏の考え方の素晴しさに感動しました。ぜひ皆さんにもお伝えしたいので、このコラムで紹介します。


日本外国特派員協会でのハービー・ハンコック氏のスピーチ(大要)
2003年2月東京


音楽家ではなく「人間」

 「ハービー・ハンコック」と言う名前を聞くと、皆さんは即座に「音楽家」とイメージすることでしょう。しかし、私も24時間ずっと音楽家であるわけではありません。ここにおられる記者の皆さんが、言葉をつないで記事を作る仕事を「人生の一部」とされているのと同じく、音符を組み合わせて音楽を作っている私も、まず「人間」なのです。

 メディアは大変、力を持っている。人をがっかりさせたり、陥れたりする力があります。音楽もまた、力を持っています。であるが故に、私たちは「価値」と「責任」について考えるべきだと思います。音楽も、表面ではなく、その奥深いところでどう価値判断するかが重要です。この「価値創造」することについて、私は毎日格闘しているのです。人間と言うものは、物事の表面だけ見ていると、責任というものを忘れがちだと思います。


メディアには責任が

 世界は今まで、お金と権力がすべての価値と考えてきました。それに対して、生命の価値を忘れ去ってきたのではないでしょうか?また、現代は知識と情報が氾濫しています。それに比べて、本当は「智慧(ちえ)」が大切なのではないでしょうか?智慧と言う言葉自体、あまり耳にしなくなっています、

 この数年間で、私は大きな変化を遂げました。それは、「私は何か?」という問に対し、「私は音楽家ではない」と言う解答を得たことです。音楽家と言うのは、あくまで自分の仕事であって、私はいい人間にも悪い人間にもなりうる存在だということを得ました。きっと、「私は音楽家ではない」と聞かされて、会場の皆さんも驚かれたことでしょう(笑い)。

 音楽を本当に「生きたもの」にするのは、奏でる人の人間性だと私は思います。意義のある音楽というのは、テクノロジーを駆使するだけでは生まれてこない。単なる音の組み合わせでも生まれない。楽器を通じてにじみ出てくる、人間性そのものが生むのです。

 音楽の仕事というものは、多くの人に啓発をもたらす立場にいるということを、私は自覚して、これからも素晴しい仕事をしていきたいのです。


インタビュー記事から


記者: 素晴しいスピーチでした。

ハービー・ハンコック氏(以下、H.H): 特派員の方々は、言葉のプロでしょう。私は言葉のない音楽を仕事にする者。ドコドキだったよ(笑い)。でもねこの年齢になると、怖いものなど何もないんですよ(爆笑)。

記者: 勇気に満ちた演説です。

H.H: 音楽と勇気。一見まったく関係ないようですが、そうではありません。ひとつのキー(鍵盤)をたたく、その次、そして、その先を探っていく。つまり、勇気を出して行動しなければ、音楽は生まれない。人生と同じです。人生も前進しなければ、発展はありません。若い時のバイタリティーをタンスにしまいこみ、それなりに落ち着いていく生き方は、私は断じてしたくないんです。

記者: 好評を博した「東京JAZZ」を、今年も手がけられますね。

H.H: 昨年、音楽フェスティバルとしては珍しく、野外ではなく、都市のスタジアムで行いました。大きな手応えを感じたので、今年もプロデュースに挑みます。

記者: 手応えとは

H.H: 東京JAZZの試みとして、若い人たちをジャズに糾合しようというコンセプトがありました。咋夏、予想以上の観客が集まってくれましたが、そのなかでも、今までジャズを聴いたことがないという若者がたくさん来てくれたことがうれしかった。

記者: 確かに若いファンが多かった。

H.H: 共演者も、多彩なジャンルの若い人が参加してくれました。私も60歳を越えて、若い世代のことをいつも考えています。どうしたら、若い世代を励まし、彼等の才能を隠すベールやフィルターを取り除くことができるのか。そして、彼等がどう誠実に正直に、自分の思っていることを表現できるようにしてあげられるか、いつも考えています。ジャズにしろ、音楽似しろ、文化にしろ、それを受け継ぐ人がいなければ、滅びてしまうのですから。

記者: ファンク、テクノ、ヒップホップなど、さまざまな”若者の音楽”ジャンルに積極的に触れ合ってきたハンコックさんならではですね。

H.H: もう一つは”人間の復権”ということかな。ジャズはその時代時代を呼吸する音楽なんです。そして、現代を見渡してみると、グローバル化の時代ですよね。世界がどんどん一体化していく時代。だけど、ともするとグローバル化が、「権力」や「金力」といったもの、ハードパワーに利用される側面もあります。民衆を無力な存在におとしめる動き。大きな国が小さな国を支配してしまう危険もある。それには断固、反対!私たち民衆は、一人一人がとてつもない力を持っているんだ!そう訴えることをジャズはやめてはならない。弱者やマイノリティー(少数派)の存在をアピールしていかなくてはならない。だから、東京JAZZでは、アメリカだけではなく、世界各地の音楽家も奮って参加してもらうんですよ。ジャズには競争はありません。ほかのアーティストと分かち合うことで、刺激を与えることができます。言い換えれば、21世紀の新しい発想というものは、「皆が勝利すること」「敗者がいない」ーこの考え方のもとにあらゆる解決策を見い出していくこと。これは、ジャズの「分かち合う精神」と同じことだと思うんです。

記者: 東京JAZZ今年も期待しています。

H.H: ありがとう。あらゆる角度から新しい解答を見つける冒険を、若い人たちと一緒にしていきたい。誰にでも「無限の可能性」があることを、自らの身で示していきたいのです。


2003年5月12日付け聖教新聞の記事より引用しました。
戻る | 第6話へ
Copyright (C)2001-2005 Hideaki Yahagi. All right reserved.
当ページに掲載されている全ての画像、文章、データの無断転用、転載をお断りします。