コラム - 第8話


第8話 - 音楽家と音楽業界  by 矢萩 秀明
 このコラムは2006年2月に行われた日本工学院八王子専門学校・音響芸術科特別講義第3回の内容を整理したものです。


 みなさん、こんにちは。
今日は、特別講義第3回。芸術としての音楽と仕事としての音楽との二つの側面の間で悩む音楽家の心理を考えてみようと思います。

まず音楽の世界は純粋に芸術表現の世界だが、音楽業界は企業による金儲けの世界だ。
しかし、ミュージシャンと言えども生活し生きていくためにお金がいる。そのためには音楽業界の中で仕事をしなくてはならない。そこに多くの矛盾やジレンマがうまれ、理想と現実の狭間で多くのミュージシャンは悩むのだ。

ミュージシャンや歌手などのアーティストが有名になるとイメージが一人歩きを始めアーティストを苦しめ、時には死に追いやることもある。 そんな例を見てみよう。

ジミ・ヘンドリックスは、優れたギター・テクニックやサイケデリックなファッション、過激なステージ・パフォーマンスなどで有名になった。
彼はその後、自らのスタジオ「エレクトリック・レディーランド・スタジオ」を手に入れ最新の設備と技術を使ってアフリカン・リズムを大幅に導入した新しいサウンド作りを始めた。
しかし、大衆は彼にいつまでも「紫の煙」を演奏し、ギターに火をつける事を望んでいると判断したレコード会社は、白人向けのブルース・ロックを演奏し続けることを要求した。

孤独に苛まれ歌うことで自分を支えていたジャニス・ジョップリン。マネージャーは彼女を白人版ビリー・ホリデイの鋳型にはめ込もうとした。ドラッグでボロボロになったブルース・シンガーと言うイメージで売ろうとした。その結果、彼女は酒と麻薬におぼれ27歳で麻薬のやり過ぎで死んだ。

R&B、ソウル界の傑作アルバムであるマーヴィン・ゲイの「ファッツ ゴーイングオン?」を彼が発表しようとした時、モータウン・レコードは大反対した。それはアルバムのテーマがあまりに政治色がありダンス音楽のレーベルという会社のイメージが壊れることを恐れたからだ。しかし、このアルバムはモータウン・レコード最大の売り上げを記録した大ヒット・アルバムとなった。

これらの例によって音楽業界人が必ずしもミュージシャンの幸せを願っているわけではないことが分かるだろう。

バンドをクビにする時の業界人がとるいくつかのパターンを紹介しよう。
S歌手の場合には、 次の新しいスケジュールを入れないと言う方法がとられた。この場合mバンドはクビになったことはまったく分からない。ある日、コンサート情報などを見て自分たちが知らない間にコンサートが行われたことを知りそこで初めて自分たちがクビになったことを悟ることになる。
K歌手の場合には、秘密の内に代わりのバンドを用意してから突然クビにすると言う方法がとられた。
M歌手の場合には、「しばらく別のバンドでやってみたい。
君たちはいいブレーンだ。決してクビではない。大きなコンサートの時にはまたお願いしたい。」と言っていたがその後連絡は無い。
ミュージシャンにだって生活を守る権利がある。突然クビにされたら生活に困ってしまうだろう。
こうした音楽業界人はミュージシャンを使い捨てにする。悪い習慣だと思う。

こんなエピソードもある。ある歌手の仕事で地方に向かっていた時、途中の乗り換えの駅でキーボードのメンバーHさんが心不全で亡くなった。 バンドのメンバーは救急車を呼んだり、病院に付き添ったり、関係各方面に電話連絡をとったり、全員力を合わせて緊急事態に対処した。
目の前で大切な仲間を失ったショッックでバンドは失意のどん底にいたが仕事に穴をあけるわけにはいかない。ヘトヘトになって現場に到着した時、イベンターは「困った。メンバーが一人足りないとクライアントに契約違反だと言われる。誰でもいいから衣装を着せてキーボードの所に座らせておいてください。」と言ってのけた。
人が一人亡くなったと言うのに自分たちの都合しか考えていない。その後、急遽東京からスタジオ・ミュージシャンを呼び寄せ初見のぶっつけ本番で演奏してもらい危機を脱した。

音楽家と音楽屋は違うのです。
我々ミュージシャンは、芸術家と職人両方の面を持っています。 あっという間に空間と時間の中に消えてしまう音楽を愛し命をかけて生きているのです。
だからこそ本当のミュージシャンはお互いを尊敬し合い戦友のような感情を持っています。

業界人の悪い点ばかり紹介しましたが、もちろんこれは人によるのです。素晴らしい人もたくさんいるので業界人を悪人のように思わないでくださいね。
もしかしたらそんな音楽業界を許してきたミュージシャンが悪いのかもしれませんしね。
いずれ皆さんもプロとして音楽業界に出て行くことでしょう。どうか皆さんは優しい純粋な心を失わずにより良い音楽業界を作っていってください。

では、最後に一曲演奏します。

演奏

ありがとう!!

2006年2月15日                    矢萩秀明

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