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コラム
矢萩 秀明 - コラム03
20才?頃の矢萩、下馬のガソリン・アレイにて
第3話 - バッキングとは何か  by 矢萩 秀明
 ある曲を演奏する場合、ソロ(独奏)を除けば他の演奏者と一緒に演奏することになります。これをアンサンブルと言います。アンサンブルは、メロディーやソロ(イントロや間奏での)などのリード・パートとそれらを伴奏するバッキングとに別れます。一般に多くのギター・プレイヤーはソロのことばかり考える傾向があり、バッキングについて学ぼうとしないようですが、良いギタリストを目指すなら先ずバッキングについて学ぶべきでしょう。プロとして曲を演奏する場合、ほとんどはバッキングであると言っても過言ではありません。言うなればソロやリード・パートは、曲を色付けする飾りであり、バッキングは曲を成り立たせ、ノリを作り出す骨格であるわけです。

 もし、あなたがソロしか興味がないと言うのであれば、2〜3時間に及ぶコンサートのステージの上で、あなたのソロのほんの数秒の時間が来るまで一体何をしているのでしょうか?また、もしあなたがバッキングの知識が無いとしたら、レコーディング・セッションに行った時、まだリズム・トラックも録り終わらないうちに、ソロを録らせるようプロデューサーに要求するつもりでしょうか?ライブ・パフォーマンスでもレコーディング・セッションでも、ギタリストに望まれていることは、先ず曲を豊かにしてくれるバッキング・ワークであることを知るべきでしょう。

 では、バッキングとは何でしょうか?バッキング【Backing】とは、その文字に示されるようにフロントに立つ者(ボーカルやソロを取る楽器奏者)が演奏しやすいバック・グラウンドを与えてあげることです。バッキングの要素としては、次のような点が考えられます。

1.リズミック・バックグラウンド
  テンポやビート、リズムやグルーブを提示する。

2.ハーモニック・バックグラウンド
  和声の流れを示す。

3.メロディック・バックグラウンド
  メロディーを効果的にするためにオブリガートを入れたり、空間を埋めたりする。

4.ムード
  ムードを演出する。効果音的なものも含む。

5.ダイナミクス
  ダイナミクスやパワー感の変化により感情表現の補佐をする。

 どのようなバッキングもこのような要素を具体化する手段として使われているわけです。バッキング・パートを構成する時、この「具体化」と言う部分が問題になります。

 イントロはソロを弾いて、Aセクションではパワー・コードを、Bセクションではクリーンなリズム・ストロークを弾き、ブリッジでは美しいコーラス音でアルペジオを弾き、間奏では歪んだ音でソロを弾くなどと演奏の内容がはっきり決まっている(誰かに指示される)場合は、比較的簡単に自分が何をすべきなのかを理解できます。しかし、もし自分のアイデアでバッキングを考えなければいけないとしたら一体何を弾けば良いのでしょうか?バッキングをする時に何か判断の基準になる考え方があるのでしょうか?


バッキングの考え方

 バッキングの具体的な方法を考える前に、もう少しバッキングひいてはアンサンブルについてその基本的な考え方を学びましょう。まず、アンサンブルを音楽と同様に音を使うコミュニケーションの方法である会話に当てはめて考えてみましょう。

 アンサンブルは会話をするのに似ています。自分だけでしゃべっているのは、独言であり会話ではありません。また、何人かが一緒にしゃべっている場合でも、お互いがただ勝手にしゃべっているだけで、お互いの受け答えが無ければやはり会話ではありません。スピーチや演説などはソロ演奏であって、原稿は譜面にたとえられるでしょう。譜面を見て独奏する演奏者は、原稿を見ながらスピーチするのに似ています。アンサンブルは会話であって、原稿を見ながらスピーチするのとは違います。相手の反応によっては盛り上がったり、白けたりしながらアド・リブで展開されるものです。もし、会話のセリフを決めていたら何か白々しいものになってしまい、生きた会話にならなくなってしまうでしょう。これと同じように、アンサンブルは「楽器を通した会話」と言えるでしょう。この「楽器を通した会話」の中で、バッキングとは誰かが話しをしている時に「聞き役」にまわり、相手が話しやすくしてあげることと言えます。相手の話しを注意深く聴き、相手の気持ちを察してあげる。嬉しい時には一緒に喜んであげ、悲しいときには慰め、気落ちしている時には励まし、混乱している時には落ち着かせる。ある時は何も言わずに聴いてあげることが一番良いかも知れないし、ある時は適当な短い質問をして話しが進むように配慮した方が良いかも知れない。ひそひそと小さな声で話し出したら、何か秘密の話しかも知れないからこちらも小さな声で話してあげよう。もし、何か言い出しにくそうにしていたら、話しやすいように相手の気持ちをリラックスさせる話しをしてあげよう。こんな気持ちを持つことがバッキングする上でとても大切なことなのです。

 では、もう一つ別のたとえです。もし、楽器をまったく使わずに二人で音楽をやろうとしたらどんな方法があるかを考えてみて下さい。先ず、原始的でかつ最も重要な方法は歌うことですが、もし一人が歌ったら残ったもう一人ができることは、次の3つです。

1.一緒に歌う。(ユニゾンする。ハモるのも含む)
2.合の手を入れる。
3.リズムを取る。

 この3つは、やはりバッキングをする時にも重要なポイントになります。ただし、バッキングの場合の「一緒に歌う。(ユニゾンする。)」の意味は、メロディーをユニゾンすることではなく、白玉コード(音楽用語ではない!?)のバッキングなどを指し、「合の手を入れる。」はフィル・インを入れることで、「リズムを取る。」はバッキング・パターンを規則正しく続けることなどを指しています。この3つの点についてもう少し深く考えてみましょう。

1.ユニゾンする。

 多くの場合、広い意味でのリズム・セクションは、ピアノとギターとベースとドラムの4つの楽器で編成されます。これを「4−Rhythm」と呼び、ギターを抜いた3つの楽器の編成を「3−Rhythm」と呼びます。ギターと言う楽器は、リズム・セクションの他の楽器、ピアノやベースやドラムの持つ特徴を全て合わせ持っています。ピアノはコードとメロディーを自由に使えますが、ドラムのようなパーカッシブな音を出すことはできません。ベースは充実した低音を持っていますが、高音は出せませんし、コード・ワークにも限界があります。ドラムは自由にリズムを作り出せますが、メロディーやコードを演奏することはできません。これに対して、ギターはメロディーを弾くこともコードを弾くこともできますし、ブラッシングなどを使ってパーカッシブな音を出したり、5〜6弦を使ってベースのような低音を出す(これをハーフ・ベースと呼びます。)こともできます。音域的にも、ちょうど3リズムの中間にあり、この三者を結び付けるような働きをしています。そこで、アンサンブルの中で他の3リズムの楽器が演奏しているものをユニゾンすると言う方法が良く使われます。ピアノの弾いているリズム・パターンをユニゾンしたり、ベースの弾いているリフをユニゾンしたりすることもありますが、何と言ってもアンサンブルの中心はドラムです。ドラムのパターンをユニゾンすることから始めます。ユニゾンの仕方としては、「まったくのユニゾン」か「一部のユニゾン」か、そして「隙間をぬう」かです。「隙間をぬう」はユニゾンとは言えませんが、ユニゾンする場所が解かって初めてその隙間をぬうことができるわけですから、これはユニゾンから発展してできた方法と言えます。

2.合の手を入れる。

 メロディーの音の長く伸びている所や休んでいる所を「デッド・スポット」と言いますが、そのデッド・スポットをオブリガードやフィル・インで埋めることを指しています。一般に、4・8・12・16小節目といった偶数小節の3・4拍目に来ることが多く、その曲のリズムやムードに合わせたものにします。リズム・ギターとしては、フレーズを入れると考えるよりもリズムの変化を付けると考えた方が良いでしょう。このようにメロディーを呼び掛けと見立てて、それに対して返事をするように合の手を入れるようなやり方を「コール・アンド・レスポンス【Call & Response】」と呼びます。アンサンブルの中でコール・アンド・レスポンスはメロディーに対して行なうだけでなく、状況に応じてベースのパターンに対しても、ドラムのパターンに対しても行なわれます。


バッキングの具体化

 ある曲のバッキング・パートを構成するプロセスを考えた場合、どういったことを基準に判断して具体的なバッキングを決めていけば良いのでしょうか。レコーディングやリハーサルにおいてまだリズム・ギターのパートが決まっていない場合、プロのギタリストならまずそのギターの入っていないバンドのサウンドを注意深く聴くことから始めるでしょう。もし、譜面があればそれを参考にします。そしてそこから多くの情報を得て、短時間に色々なことを考え判断し決定していきます。

1.テンポはどのくらいか?
2.どんなビートか?(跳ねるのか跳ねないのか)
3.曲のキイは?(メジャーかマイナーか、開放弦が使えるキイかどうか)
4.どんなグルーブか?
5.曲のムード(明るい曲か、暗い曲か、ハードな曲か、静かな曲か)
6.曲の構成とダイナミクス

 また、ジャンルによっては特徴的なパターンやサウンドがありますからどんなジャンルか?ということも大切な判断材料になります。

 以上のような基本的なことを判断した上で、次にその曲のアンサンブルにおいて何が足りないか?または何が必要かと考えます。

1.もしリズムをあまり強調する必要が無く、落ち着いた感じにしたいなら白玉コードかアルペジオを弾きます。

2.コードを動かすことによってパターンを作っているような場合は、ピアノとユニゾンするか、ダブル・ストップを使ってトップをなぞると良いでしょう。これらはピアノのサポート、またはピアノ的なアプローチと言えます。

3.もしタイトな感じがほしければ、3〜4本の弦を使ってコード・ストロークをします。もっと軽くしたければミュート・プレイにします。

4.もしピアノがリズミックなコード・バッキングをしていて、ギターがコード・ストロークをする必要が無いなら、ブラッシングを使ったり、シングル・ノート・ストロークにしたり、ワウワウを使うのも良いでしょう。これはドラムのサポート、またはパーカッション的なアプローチと言えます。

5.もしパワー感がほしいなら、フル・コードをストラミング(掻き鳴らす)するか、ディストーション・サウンドでパワー・コードを弾いたり、クランチ・サウンドでコードを弾いたりします。

6.もしピアノやシンセサイザーにより高域が十分なら、パワー・コードやディストーション・サウンドでルート弾きをします。

7.もしピアノやベースにより低域が充実しているなら、高域を使ったコード・ストロークが効果的でしょう。

8.もし16ビートの曲で、ハイハットが細かく刻んでいるなら、ギターはシンプルなパターンを弾き、ハイハットが4分や8分を刻んでいる時は、ギターは16分音符を弾きます。

 バッキングを具体化する上で、音色も重要な要素です。ディストーション・サウンドかクリーン・サウンドかによってバッキングのやり方も違って来ますし、ディストーション・サウンドならハンバッキング・ピックアップを、クリーン・サウンドならシングル・コイル・ピックアップを、アルペジオならコーラスとコンプレッサーをかけてハーフ・トーンにするなど、ギターのピックアップの選び方まで関係してきます。

 このようにして曲のセクションごとに、何をやるのかを決定していきます。実際のバッキング・パターンの作り方については、また別の機会にします。

 最後に一流のプロデューサー、コンポーザー、アレンジャーであり、スタジオ・ミュージシャンでもあるギタリスト、ジェイ・グレイドンがリズム・ワークについて語った文献があるので紹介します。


リズム・ギター・プレイヤーとして By Jay Graydon

 幾年にも渡って人から、どうやってレコーディングの仕事を始めたのかときかれることがある。僕はそれに対して毎回同じように答え、またそれが変わるとも思えない。成功しているスタジオ・ミュージシャンから自分のプレイを認められ、気に入られてサブ・プレイヤーとして使ってくれる。そんな人を見つける必要があるだろう。僕の場合はディーン・パークスが僕を後押ししてくれた。

 そして徐々に、レコーディングのキャリアを積むうちに、スタジオでのプレイ、特にリズム・プレイが浮かび上がって来るようになった。どんなパートを弾けば上手くいくか、上手くいかないか、また、どんなサウンドとエフェクトが合うかといったことを考えるようになったんだ。


リズム・プレイへのヒント

1.僕がリズム・ギター・プレイヤーとしてレコーディングに臨むほとんどの場合、上から3本または4本の弦を中心に使い、5・6弦はミュート音を使うパートにつかっていた。

2.ピアノ奏者の邪魔にならないコード・ボイシングを心がけること。

3.新米のプレイヤーがおかすもっとも大きな間違いは、音を埋めすぎることである。リズム・セクションの邪魔にならずに、ただ色付けをするようにすること。  フィルは後からオーバー・ダビングで入れることができる。

4.初めにある曲を通して演奏してみる時に、曲のフィーリングをつかむようにすること。こうした事に備えるには、プレイヤーは沢山のレコードを聴いて、ライブの経験を積み、異なるフィールとリズムを身に付ける必要がある。

5.リズム・セクションの強調する所にフィットするようにプレイすること。ドラマーの音をよく聴いて、彼のノリに合わせると良い。もしドラムが盛り上がったなら同じように盛り上がったプレイをする。リズム・ギター・プレイヤーは、ここで新たに別のノリを作り出すには至らない。

6.もしも、リズム・ギターのパートがしっくりこなければ、それを変えていき、しっくりくるように努めること。もしそのレコーディングのリーダー(プロデューサーやアレンジャーなど)が書いてある通りにやって欲しいと言うのであれば、最善を尽くすように。それでもリーダーの言うように弾けないのであれば、そのむね「弾けない。」もしくは「不可能だ。」と彼にきちんと伝えること。もし、譜面に誤りがあれば、そこで大騒ぎなどせずに、ただ訂正を加えれば良い。

7.時折、もとから考え練っていたものではなく、偶然に素晴らしく決まるリズム・パートを見つけることになるだろう。そういったものは、自分をトップ・リズム・プレイヤーとして名を知らしめるのにおおいに役立つだう。

※多くのギター・プレイヤーがリードをとること、ソロをとることにエネルギーを注いでいるが、曲の90%はリズム・プレイなのだということを覚えておいて欲しい。

 もし、スタジオ・プレイヤーかプロデューサーとしてキャリアを積むことに興味があるのなら最後に挙げるこれらの示唆が役立つことだろう。

1.良いリスナーになること。これは音楽ばかりでなく、一緒に仕事をする人達にも耳を傾けるということ。

2.最新のヒット曲やヒット・アーティストに詳しくなること。どんな楽器が使われているか、またどういうミックスで曲ができているかに注意すること。どんなエフェクトが使われているかよく聴くこと。(フランジャー、エコー、コーラスなど)だれが何をいつ使っているか知ること。

3.プロ意識を持ち、会うべき人と仕事をしていくこと。(アレンジャー、エンジニア、契約関係者、そしてもちろんレコード会社の人間やアーティストのこと。)

4.最終的に自分自身でいたくなる。テクニックと自分の音の向上に努め、その他大勢から抜きんでること。

5.完璧さを努めるべきだ。他の人がもう十分だと言ったとしても、ベストに劣るもので落ち着いてしまってはいけない
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