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コラム
第23話 「ジャイアント・ステップス」=「巨人の歩み」 by 矢萩 秀明

 ジョン・コルトレーン (John Coltrane)は、偉大なサックス奏者であり、作曲家であり、時代を牽引する、まさにトレインだった。1950年代のハード・バップの黄金時代から 1960年代のモード・ジャズの時代、さらにフリー・ジャズの時代に渡り、偉大な足跡を残した。(参照:ウィキペディア)


彼の中期の作品の中に「ジャイアント・ステップス(Giant Steps)」と言う曲がある。
この曲はよくジャズのセッションで取り上げられる曲としても湯名だ。
頻繁に遠隔調に繰り返す転調とBPM=240もの速いテンポで演奏されるため難易度はかなり高い。
 
この曲の曲名「ジャイアント・ステップス(Giant Steps)」=「巨人の歩み」は実に意味深い。
この曲は、「マルチ・トニック」と言う作曲上の新しい理論を使って作曲されている。
そのため、当時のハード・バップのサウンドとは一線を画したサウンドになっている。
モード・ジャズへと移行して行く過程の実験的意味合いの強い曲だが、転調の斬新さとメロディが独特の魅力を持つ名曲だと思う。
 
さてこの「マルチ・トニック」だが、通常、曲の拠り所となるスケールは、1オクターブをいくつかに分割することで人為的に生み出すことができる。
たとえば、ハーフ・ステップ(半音=短2度)で12分割すれば「クロマチック・スケール(半音階)」。
ホール・ステップ(全音=長2度)で6分割すれば「ホールトーン・スケール(全音音階)」。
短3度で4分割したものを「ディミニッシュ分割」と呼び、さらに全音ー半音または半音ー全音の順に並べたものを「ディミニッシュ・スケール」と呼ぶ。
このように1オクターブをいくつかに分割してできた音列をトニック(主音)として転調するコード進行を作る技法を「マルチ・トニック」と呼ぶのだ。
   

そしてこの曲の由来だが、半音をハーフ・ステップ、全音をホール・ステップと呼ぶことから察しがつくと思う。
長3度で大きな音程で1オクターブを3分割する音列をマルチ・トニックとして作曲されたことから、この曲は「ジャイアント・ステップス」と名付けられたのだ。
   

そしてこのようなマルチ・トニックと言う考え方自体がそれまでの調性音楽と決別しモード・ジャズの到来を告げる「巨人の歩み」であったのだ。
 
実際のコード進行。(コルトレーン・チェンジ)
 
 
さ らにこの曲のコルトレーンのアド・リブ・ソロには、各コードに大してそのコードの1・2・3・5の音使いによって演奏されている。この音使いはメジャー・ ペンタトニック・スケールの1・2・3・5・6の音列から6度の音を抜いた音使いであることから「ペンタトニック・ユニット」と呼ばれ、さらに簡略化して 「ユニット」と呼ばれている。
この音使いによるフレーズは単独で聞くと非常に単純なものであるが、コルトレーンはこれを超高速で吹き捲くるという手法でソロを構築した。これを「シーツ・オブ・サウンド」と形容する。
 
 
さて、1960年にアトランティックから発売した同名タイトルのアルバムから1曲目の「ジャイアント・ステップス(Giant Steps)」を聴いてみよう。
 
http://www.youtube.com/watch?v=30FTr6G53VU
 


先に説明した曲の特徴がよくわかるだろう。
テーマの後、コルトレーンの怒濤の勢いのソロが展開されるが、面白いのはこの後のピアノ・ソロだ。
演奏は名ピアニストのトミー・フラナガンだが、恐らく彼はこの曲に戸惑っことだろうと予想される。
コ ルトレーンは、作曲者であるからこの曲がどのような理論で作られたかを知り尽くしている。上手にアド・リブしてもある意味当然だろう(失敬)。しかし、初 めてこの曲を演奏することになったトミー・フラナガンは、この曲を理解するのは多少は難しかったのどと思う。ソロを聴くと何か戸惑いながら弾いている感じ が伝わって来るし、途中では行き詰まって演奏をやめてしまい、最後はコードを弾いて早々とソロから撤退した感がある。
コルトレーンの曲にはこのような最先端の理論を駆使した実験的な曲も多く、そうした曲での共演者の演奏には同様に戸惑いの跡が見える。
最新の理論で武装し音楽を切り開いていくコルトレーンと、戸惑いながらも共に音楽を作り上げていく共演者達の姿を思い浮かべながら聴いてもらいたいと思う。

2011年4月

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