第73話 – 売ります。赤ん坊の靴。未使用

1.6ワード・ノベル

「売ります。赤ん坊の靴。未使用」
(For sale: baby shoes, never worn)

この文章を読んで皆さんはどう思いますか?
何か物語を感じてしまいますね。
この主人公は男性だろうか?女性だろうか?
どうして赤ちゃんの靴を持っているのだろうか?
赤ちゃんは亡くなったのだろうか?
この主人公に何が起きたのだろう?そう思わずにはいられませんね。

この文章は、文豪ヘミングウエイが6の言葉だけで作った物語だそうです。
(For sale: baby shoes, never worn)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

短い言葉の組み合わせですが、読む人の想像力や好奇心をかき立てる文章ですね。さすがです。

2.物乞いする盲目の男。一人の女性が近づきしたことは?

もう一つ別のお話をしましょう。
ある盲目の男が通りに座り、物乞いをしていました。
男の前には、

「私は盲目です。助けてください。」

と書かれた段ボールのプラカードと空き缶が置いてあります。

沢山の人がその男を見ながら通り過ぎて行きますが、なかなか缶の中にお金を投げ入れてくれる人はいません。
たまたまそこを通りかかったある女性がいました。
彼女は、その男の様子が目に入りましたが、通り過ぎていきました。
しかし、思い直して彼女は引き返してきました。
お金を恵むのかと思うと、そうではなく、男の横においてあるプラカードを取り上げると何かをそこに書き込むと、去って行きました。

その直後から、その男の前を通る人たちは彼の前に立ち止まりお金を缶に投げ入れるようになりました。

彼は、どうして急にたくさんの人が自分に施しをするようになったのか不思議でたまりませんでした。

彼女はそのプラカードこう書いたのです。
「皆さん、今日はなんて素敵な日なのでしょう!でも、私にはそれが見えないのです。」

言葉の力は、用い方でこんなに違うのですね。
私はこの二つの物語から、音楽も同じなのではないかと思うのです。

3.カンディンスキーの音楽への憧れ

音楽そのものには暗示する力しかありません。
そのものズバリを指し示すことは出来ないのです。
しかし、そこが音楽の自由さなのです。
ロシアの抽象芸術家のカンディンスキーは、この自由さを音楽の特質の一つと考えていました。
音楽は聴く人に暗示を与えはしますが、その人が頭の中で何を具体的に思い浮かべるのかは人それぞれです。
大切なのは聴く人の想像力をかき立てることです。

カンディンスキーはそれを絵に喩えています。
写実的な絵は本物そっくりであればあるほど見る者のイメージをはっきりと限定します。そこに想像力は必要ありません。
ところが抽象的な絵であればその絵は暗示を与えるのみで何も具体的に指示しません。そのため見る者は想像力を働かせて見るのです。
このような理由からカンディンスキーは抽象的な絵を描くようになっていきました。

これらの話しに共通するのは想像力です。
想像力をかき立てる音楽とはどんなものでしょう?
それこそが私達音楽家が追い求めるテーマの一つかもしれません。