第78話 – ”ためる”と”イン・テンポ”


これは自分にとって既にできている事だが、演奏の中で色々試して見てはっきりと認識できたことがあった。
そのセオリーを確立しておくと次は確実にできるようになる。
そこで、ここに記録しておくことにする。

イン・テンポに弾ける人だけが溜められる

「溜める」と言うのは音をビートに乗せないで自由なタイミングで弾くことだが、この表現を効果的にするには、ビートに乗せて演奏するテクニックを身に付けることだ。これができた時に初めて本当の意味で溜めることができるようになる。
普段からビートを意識しないで演奏している人はそもそもインテンポではなくすべて溜めて弾いているようなものなので特に溜めたからと言って特別な効果は出ないのだ。

フレーズの着地の音だけを溜める

フレーズ(やメロディ)をゆったり聴かせるには、溜めて弾けば良いのだが、ただ全体を溜めて弾くとただタイミングがずれただけの演奏になってしまう。
そこで、フレーズはビートに乗せてイン・テンポで弾き、フレーズの着地の音だけを溜めて弾くとちょうど良くなる。
体操などでも演技した後、着地がドシンと着地するとカッコ悪い。フワッと軽やかに着地すると評価が高くなる。
それと同じように着地の音は丁寧に弾くようにする。

アタックはジャストで音程変化のスピードのみ遅らせる

着地の音にスライドやグリスまたはベンド(チョーキング)を使って溜める場合、アタックのタイミングは遅らせず、ジャストの方が良い。そして、目的の音にスライド・アップまたはベンド・アップするスピードを適度に遅くする。
着地する音を弾くタッチの強さとスライド・アップするスピードを調整して感情の強さの表現をコントロールする。
音程の上がるスピードが速いほど、スピード感は出るが、感情がこもっていないように聴こえる。つまり軽い表現になる。
逆に、音程の上がるスピードが遅いほど、感情がこもっているように聴こえる。つまり重い表現になる。
ついでに言えば、この時のビブラートの掛け具合も無関係ではない。

メロディは全てを溜めて弾いてはならない

複数のフレーズを連続して弾いていく場合やメロディを弾く場合は、全てを溜めて弾いてはならない。
全てを溜めて弾くと、ただズレているように聴こえるだけだ。一曲の中でイン・テンポで弾く部分と溜める部分を分けて弾くようにすればどちらも活きてくる。
例えば、メロディの一部分をアッチェル(段々速く)したり、リット(段々遅く)したりしてみるのも良いが、その場合はメロディの着地点のタイミングはジャストにするか、メロディのその部分の拍数は変えない方が良い。

ハイ・ポイントはしゃくり上げる

メロディには、たいてい音程が一番高くなるところがある。これを「ハイ・ポント」と呼ぶ。通常は、メロディ全体を通してハイ・ポントは1箇所の事が多いが、部分的なメロディやフレーズにもそれぞれハイ・ポントが存在することがある。
そうしたメロディやフレーズの頂点になる音で、ある程度音価が大きい場合には、その音は重要な音である。
スケール的に上昇して到達した音が伸びている場合や、跳躍進行によって上昇し到達した音が伸びている場合には、その音を簡単に弾いてはならない。その音はスライドやベンドを使って音程をしゃくり上げるように弾くのが自然だ。
同じように5度や6度やオクターブのような大きな音程で上または下に跳躍して出て来る音も軽々しく弾いてはいけない。大きく跳躍して出て来る音は感動を誘うためのものだからだ。大きな感動を得ようとするなら溜めて弾く事だ。ただし、これには逆説もある。大きな跳躍を溜めずにスピーディーに弾く事でスピード感や勢いを演出できる。どちらを選ぶかは演奏者次第だ。

弱起は溜めてはならない

弱起で始まるメロディは、その始まるタイミングやリズムに意味があるので、弱起の部分を溜めてはいけない。その後の部分で溜めるようにする。
同様に、弱拍でメロディが終わり、次が休符であるような場合にもその終わりの音は溜めない方がいい。弱拍でメロディが終わるのはリズミックなフレーズであることが多いからだ。

シンコペーションは溜めてはならない

弱起と同様にタイミングやリズムに意味があるので、シンコペーションの部分を溜めてはいけない。

リズミックなメロディも溜めてはいけない

リズミックなメロディも溜めてはいけない。
リズミックでない部分を溜めるようにして、リズミックな部分はイン・テンポで弾くようにする。感情を込めたい音だけを溜めるようにした方が良い。
ポリリズムを使っているような場合に、溜めてしまっては何をやっているのか意味が無くなってしまう。

歌手が溜めて歌っている時に伴奏はイン・テンポで

歌手は長い音符をより長く歌う傾向が強い。ロング・トーンで自分の声をたっぷり響かせて客に聴かせたいからだ。
このような場合、バッキングを溜めた歌に合わせてしまうと溜めた効果が出なくなるのでイン・テンポで演奏する方が良い。歌手が溜めて歌っている後ろでオブリを弾く場合は、ギターはあまり極端に溜めてはいけない。
ただし、歌手がずれたのか溜めたのか判断しなければならない。
上手い歌手なら”タメ”を上手に使うので心配はいらないが経験の浅い歌手や力量の無い歌手なら歌手の様子をよく観察して懸命な判断を下さなければならない。
ただし、「(テンポ)ルバート」の場合は、すべて溜めているようなものなので鵜歌にしっかり合わせなければならない。インテンポの中で溜めるのとルバートは違うので注意。

アンサンブルの中での溜め

自分しかそのメロディーを弾いていないSOLO(ソロ)の場合には、比較的自由に溜めてよいが、SOLI(ソリ:セクションごとの合奏)やTuTTI(テュッティ:全合奏)の時、UNISON(ユニゾン)の場合には勝手に溜めてはならない。指揮者やリーダーの指示に従うこと。
歌手の歌を聴きながら演奏し、その結果、流れとしてバンド全体で溜めたくなることもある。バンドのメンバーが一流なら不可能ではないだろう。

如何にメロディを自然に弾くかは大きな問題だ。
その場合、そのメロディを歌ってみることを薦める。
歌詞を考えながら何度も歌ううちに感情を込めたいポイントが判ってくると思う。
そのポイントこそ溜めるべきところだ。
また、ゆったり弾く場合にはテンポの感じ方も影響するので、これも要研究の価値があると思う。