第92話 – The Night Story 作曲ノート


はじめに

私のオリジナル曲「The Night Story」をiTunesなどで配信を開始しました。サンプル動画をYoutubeにアップ しましたので気に入って頂けましたらご購入をよるしくお願いします。
お聴き頂いた方から「どんな風に曲を作っているのですか?」とお尋ねがありましたので、今回のコラムではこの曲の作曲過程や使われている理論等を解説したいと思います。

 

 作曲の動機と過程

この曲は三枝俊治先生から伝授して頂いた最新の音楽理論を基に作曲しました。
幾つかの理論を組み合わせていますが、最もやりたかったのは、間奏部分でのギター・ソロを全てペンタトニックの組み合わせで作ると言う方法です。
大まかに作成の過程を辿ると以下のようになります。

(1)間奏部分のベーシックなコード進行を決める。
(2)出来上がったコード進行に対してディレクショナル・ラインを作成する。
(3)一旦、間奏から離れ、AメロとBメロを作曲に掛かる。
(4)リズムのコンセプトを考える。
聴きやすくするために軽快なテンポでダンサブルなリズムにすることにした。
(5)ドラム・ループやテンポから疾走感を連想。コード進行から夜を連想。大人の夜に起こる様々な物語を連想して着想を得る。
曲名を決定。「すべてが闇に包まれ、さまざまな光が夜を彩ります。
さあ、今夜あなたにはどんな物語が始まるのでしょう。」と言うイメージです。
(6)リズムをループしてAメロのコード進行を作成。
(7)コード進行に合わせてAメロを作成。出だしの4音モチーフを考案してそこから発展させる。
(8)完成したAメロの続きを考える。間奏が複雑なのでAメロとBメロはなるべくシンプルで判りやすいものにすることにした。
思いついたBメロの最初のモチーフをコール&レスポンスを使って繰り返すことにした。
(9)イントロの作曲に取りかかる。ここでは不思議感やわくわく感などを感じてもらいたいので不思議なコード進行が必要だと考えた。そこでコンスタント・ストラクチャーの特殊な例を使ってコード進行を作成した。ここにも上昇するラインを使って緊張感を高めた。
(10)間奏のギター・ソロの作曲に取りかかる。Aメロのモチーフからスタートして要所要所でディレクショナル・ラインの音を拾いながらフレーズを作っていった。
(11)すべての作曲のベーシック部分が出来たので全体の構成を考えて譜面を作成。それに基づいて打ち込みを開始。間奏のストリングスの対旋律は、ギター・ソロの合いの手になるようにラインを基にアレンジした。ギター・ソロも重要だがこのストリングス_ラインもこの間奏のもう一つの目玉だ。
(12)完成したオケにバキングのギターをダビング。
(13)ギターのメロとソロをダビング。
(14)Mixとマスタリングをして完成

コンスタント・ストラクチャーを使ったイントロ

イントロは「コンスタント・ストラクチャー」によるコード・チェンジで出来ています。ちょっと不思議な感じ、でも自然に流れているでしょう?

「コンスタント・ストラククチャー」とは、同じコード・タイプのコードをある規則に基づいた一定のルートの動きで構成したコード進行の事です。
規則正しく(コンスタント)に構成された(ストラクチャー)コード進行と言う意味です。
調性の曖昧な浮遊感のあるコード進行を作る為の手法です。
これから「夜の物語」が始まるのですから何が起きるのだろう?と思わせるワクワク感が必要です。だから普通のコード進行では駄目だと考えたのです。そこで不規則な転調を伴うコード進行にしようと考えました。
これに適した手法として「コンスタント・ストラクチャー」を使いました。

ただし、この曲のイントロで使われているコンスタント・ストラククチャーは、その中でも特殊な使い方です。

このコード進行を解明する鍵はルートの動きにあります。
ルートの動きだけを順に書き出すと、C→A♭→F→C#(D♭)となります。

C→A♭→F→C#(D♭)

ルートの動きを音程で書くと、C→長3度下降→A♭→短3度下降→F→長3度下降→C#(D♭)となり大まかに言えば3度下降進行ですが、長3度の所と短3度の所がありコンスタントではありません。
もし通常のコンスタント・ストラククチャーであればルートの移動幅(音程)は一定ですから、仮に長3度下降なら次のようになります。

C→A♭→E→C

もし仮に短3度下降なら次のようになります。

C→A→F#→D#(E♭)

しかし、このコード進行は一定の音程幅ではないのでコンスタント・ストラクチャーでも特殊なものなのです。

最後のルート音をC#frはなく、わざわざD♭と書き足しているのもヒントです。
C→A♭→F→D♭と降りて来るルート音は、実はD♭M7コードのアルペジオになっているのです。

ではなぜD♭M7コードのアルペジオにしたかと言うと、トニック・コードがCm9なので、その前にトニックに向かうドミナント的な働きをするコードを置こうと考えたのです。例えばG7などですが、これではあまりに判りやす過ぎて面白くありませんから、裏コードのD♭7を考えました。
そしてこのコードの高い方から逆に下降してくればトニックの半音上からアプローチ出来ます。

しかし、こうするとイントロの最初のコードがBm9となってしまい、あまりにも関連が無くなってしまいます。
出来ればトニックのCm9からスタートしたいと考えました。
そこで、D♭7の代わりにD♭M7にしました。
このコードはしばしばトニックに対してサブドミナント・マイナー的に使われる事を利用したのです。
すると、イントロの最初のコードはCm9になります。これでトニックのCm9がその後不思議な動きをして、最終的には半音上からトニックに戻るコード進行ができ上がりました。このコード進行全体でサブドミナント・マイナーのD♭M7を暗示しているのです。

バラバラなものを1つにまとめる

一見して関連が無くバラバラに思えるコード群を一つのまとまったものにする方法としてはピボット・ノートを使う事が多いです。
各コードに使用可能なコード・トーンやテンションの中から共通音を見つけ出してその音をペダルとして使うことによって一つにまtろめることが出来ます。
しかし、ここではその方法は使っていません。

この曲では、この一見して関連が無くバラバラに動いているように思えるm9コード達をまとまったものにする為に1本筋を通しておきました。「ディレクショナル・ライン」です。

「ディレクショナル・ライン」とはある一定の方向性を持ったラインのことです。
この曲のイントロでは上昇するラインにしてあります。それはコード進行のルートが、前述したようにD♭M7のコード・トーン・アルペジオとして下降して行くのでそれにコントラストをつける為に上昇するラインにしたのです。コントラストは音楽の上でバランスを取る良い方法です。

テーマは判りやすく

テーマ自体には目新しいところはありません。
ただ判りやすく、気持ちいいノリになるようにしました。
AメロはCm9で始まるので、メロディも9thのD音を強調することにしました。その為、CmペンタではなくGmペンタを使うて最初の弱起で始まる4音のモチーフを作りました。そしてそこからモチーフを展開してAメロを作りました。間奏のギター・ソロが複雑なのでAメロは出来るだけシンプルにしました。
Bメロは、ノリの良さを強調することにしました。そこで簡単な2コードの繰り返しにして、メロディもリズミックなリフをコール&レスポンスで繰り返すことにしました。

ペンタトニックの応用による間奏部分

この曲の一番の聴き処は、間奏の部分です。
間奏でAメロの4音モチーフからスタートして、ギター・ソロが展開していきますが、すべて各コードに対する「アッパー・ストラクチャー・ペンタトニック」とでも言うようなペンタトニック・スケールの応用と組み合わせだけでできています。詳しくは譜面をご参照してください。

緊張感を高めるディレクショナル・ライン

ソロの裏でストリングスのメロディが絡んでいます。このストリングスのラインは、「ディレクショナル・ライン」の技法で書きました。ソロの終わりに向かって段々と音程を上げながら緊張を高めていきます。独特の妖しいムードになっているのがお分かりになると思います。ラインを基に具体的なストリングスの対旋律にするにあたっては、クインシー・ジョーンズ氏やハービー・ハンコック氏の音楽を参考にしました。

ギター・ソロのフレーズの要所要所は裏で鳴っているストリングスのラインの音をフォローしています。
次の譜面を見ればギター・ソロとストリングスのラインとの関係が判ると思います。


後テーマ

間奏の後は、テーマの再現部です。
Bメロ部分にギター・ソロをかぶせて繰り返しながらフェイド・アウトしています。 間奏のギター・ソロがいわゆる「書きリブ」だったので、このギター・ソロはほとんど単独のペンタトニックによるアドリブで弾きました。

終わりに

この曲は、ダンサブルなリズムの上にジャズのハーモニーとロック・ギターのサウンドを載せて作られています。
ダンサブルなリズムの上にジャズのハーモニーとジャズ・ギターのサウンドを載せれば、いわゆる「スムース・ジャズ」になるわけですから、この曲は「スムース・ロック」と言えると思います。
この曲は現代的なJazzのエッセンスを持ったRockの新しいスタイル「Smooth Rock」の私からの提案です。